美容室で白髪染めの薬剤を置き終わったあと、シャンプー台で「これから乳化しますね」と声をかけられたことはありませんか。「乳化」と言われても、何をされているのかよく分からないまま、頭に少しお湯がかかり、指の腹でやさしくなじませてもらう。心地よい時間ではあるものの、「これは何のための工程なのだろう」と、ふと気になった方もいらっしゃるかもしれません。

「乳化」という言葉は、美容師どうしではよく使いますが、お客様にはあまり説明する機会がないまま過ぎてしまうことも多い工程です。ただ、白髪染めのあとに頭皮がしみやすい方や、すすぎのあとに生え際がひりついた経験のある方にとっては、この「すすぐ前のひと手間」を知っておくと、施術中の不安がやわらぐことがあります。この記事では、乳化とは何か、何のために行うのか、頭皮への負担とどう関わるのかを、美容師の立場から順にお伝えします。

乳化は、薬剤を落としやすくするためのすすぐ前のひと手間です

先に要点をお伝えします。乳化とは、白髪染めの薬剤を置き終えたあと、いきなり流さずに、少量のお湯を加えて薬剤をなじませ、落ちやすい状態に整える工程のことです。色を染めるための工程ではなく、あくまで「髪と頭皮から薬剤をきれいに、やさしく落とすための準備」と考えていただくと、分かりやすいと思います。

白髪染めの薬剤には、油分や、水と油をなじませる成分(界面活性剤)が含まれていることが多く、そのまま強いお湯をかけると、はじかれたり、部分的に残ったりすることがあります。少量のお湯を加えて指でなじませると、薬剤が白っぽくやわらかいクリーム状に変わり、髪や頭皮からはがれやすくなります。これが「乳化」と呼ばれる状態です。

大切なのは、乳化は色を薄くする工程ではない、という点です。白髪染めの色は、薬剤を置いている時間のあいだに髪の内部で発色します。乳化はそのあとの工程で、薬剤を残さず落とすことが目的です。頭皮や髪に薬剤を残さないための工夫のひとつであり、頭皮への負担を考えるうえでも、意味のある時間だといえます。

白髪染めを流すまでの3つの流れ|美容室で白髪染めの薬剤を洗い流すときの、乳化からシャンプーまでの流れ

「乳化」という名前の由来と、髪の上で起きていること

「乳化」という名前は、白く濁った乳白色の状態になることから来ています。本来、水と油は混ざり合いません。けれども、間に界面活性剤が入ると、水と油がなじんで細かな粒になり、牛乳のように白く濁ります。これが乳化という現象です。

身近な例でいえば、メイク落としのクレンジングを思い浮かべていただくと分かりやすいかもしれません。クレンジングクリームやオイルを顔になじませたあと、少量の水を手にとって加えると、白っぽく変わってなめらかになり、そのあとの洗い流しがぐっと楽になります。あの「白く変わる」瞬間が乳化です。白髪染めの薬剤でも、同じ考え方で、少量のお湯を加えて全体をなじませる工程を行います。

美容室では、薬剤を置く時間が終わったら、まず少量のぬるめのお湯を髪に含ませて、指の腹でやさしくなじませていきます。頭皮、生え際、耳のうしろ、襟足まで、薬剤が塗られた部分を順に、全体に行き渡らせます。かかる時間は美容室や薬剤によって異なりますが、数十秒から数分ほどが目安です。薬剤の色や種類によって、白く変わったように見えるかどうかは違います。

なお、美容室によっては「乳化」とは言わず、「なじませますね」「軽く流しますね」といった声かけをするところもあります。呼び方は違っても、いきなり強く流さずに、いったんお湯をなじませてから落とすという考え方は、多くの美容室で共通しています。

「最初からシャンプーで落とせばよいのでは」と思われる方もいるかもしれません。ただ、薬剤がたっぷり残った状態でシャンプーをのせると、泡立ちにくく、つい力を入れてこすりがちになります。先にお湯でなじませて薬剤の大部分を落としてからシャンプーに進むほうが、こする回数を減らしやすいと考える美容師が多いようです。頭皮や髪への摩擦をできるだけ少なくしたいという意味でも、乳化はすすぎの流れの最初に置かれています。

乳化で変わりやすいこと、変わらないこと

乳化をすることで変わりやすいのは、次のような点です。

ひとつめは、薬剤が落ちやすくなり、髪や頭皮に残りにくくなることです。白髪染めの薬剤が頭皮に残ったままだと、しみる、かゆいといった違和感につながることがあります。乳化によって薬剤がやわらかくなじんでいると、そのあとのすすぎで流し残しが出にくくなります。

ふたつめは、洗い流すときの水圧や摩擦を抑えやすくなることです。薬剤が落ちやすい状態になっていれば、強い水流を当てたり、力を入れてこすったりしなくても済みます。頭皮が敏感な方にとっては、この差が施術中の心地よさに関わることもあります。

みっつめは、薬剤を全体になじませ直すという意味合いです。放置しているあいだに、薬剤がところどころ偏ったり、乾いたりしていることがあります。乳化のときに全体を指でなじませることで、色の入り方を整える意味を持たせている美容師もいます。ただし、この点をどの程度重視するかは、美容師や薬剤によって考え方が異なります。

一方で、乳化をしても変わらないこともあります。染まりの濃さそのものは、放置時間の中で決まるものです。放置時間の考え方については、白髪染めの放置時間は何分?長く置くほど染まる?頭皮への負担との関係で詳しくお伝えしています。

また、乳化をしたからといって、薬剤に対する体質の反応がなくなるわけではありません。かぶれやすさやしみやすさは、薬剤の種類やその日の頭皮の状態、体質によって変わります。乳化はあくまで「落としやすくするための工程」で、体質に合わない薬剤を安全にするものではない、という点は知っておいていただきたいところです。染める前の確認については、白髪染めのパッチテストとは|染める前のアレルギーチェックの基本を参考にしてみてください。

すすぎで残りやすい場所と、お湯の温度の考え方

乳化のあとは、ぬるめのお湯で薬剤をすすいでいきます。このとき、薬剤が残りやすい場所があります。生え際、こめかみ、耳のうしろ、襟足、つむじ、分け目、そして髪が厚くなりやすい後頭部の内側です。とくに生え際と襟足は、髪が細く短いために薬剤が絡みやすく、流したつもりでも残っていることがあります。

すすぎの目安は、「もう十分かな」と思ってから、さらにひと呼吸おいて流すことです。時間にすると30秒ほど余分にかけるイメージです。急いで済ませるより、少し長めにていねいに流すほうが、頭皮の心地よさにつながりやすくなります。

お湯の温度も大切です。熱いお湯は、髪の表面のキューティクルを開きやすくして、色の成分が流れ出るきっかけになることがあります。また、頭皮が敏感なときは、熱さが刺激として感じられやすくなることもあります。ぬるめの温度で流すことが、髪にも頭皮にもやさしい基本です。

洗い流すときは、指の腹を使って、頭皮をなでるように動かします。爪を立てたり、ごしごしこすったりすると、頭皮に小さな傷がついて、そこから刺激を感じやすくなることがあります。シャワーの水圧も、強すぎない程度に整えてもらうと安心です。

美容室では、すすぎのあとにシャンプーで残った薬剤を落とし、髪の状態に合わせてトリートメントや後処理剤で手ざわりを整えることがあります。どの工程を入れるかは、使った薬剤や髪の傷み具合、その日の頭皮の様子によって変わります。「今日はこの順番で進めます」と説明があれば、気になる点はその場で聞いてみてください。

すすぎが終わったあとは、シャンプーで髪と頭皮を整えます。染めた日の洗い方や過ごし方の考え方は、白髪染めをした日の過ごし方|汗・入浴・シャンプーの目安にまとめています。すすぎのあとに髪がごわつく、きしむと感じるときは、白髪染めのあと髪がごわつく・きしむ方へ|手ざわりが戻るまでの整え方も参考になります。

自宅で白髪染めをするときは、説明書の手順を軸にする

セルフの白髪染めでも、薬剤を洗い流す工程はあります。美容室のように専用のシャンプー台があるわけではないため、洗い流し方に迷う方も少なくありません。

まず、いちばん優先していただきたいのは、製品の説明書に書かれた手順です。製品によっては、「少量のお湯を加えて、全体になじませてから洗い流す」といった手順が書かれているものがあります。反対に、乳化の手順が書かれていない製品もあります。書かれていない場合に、自己判断で別の工程を足すよりは、説明書のとおりに進めるほうが安心です。

そのうえで、洗い流すときに意識していただきたいのは、次の点です。熱いお湯ではなく、ぬるめのお湯を使うこと。シャワーの水圧を強くしすぎないこと。生え際、耳のうしろ、襟足など、残りやすい場所を時間をかけて流すこと。爪を立てず、指の腹で頭皮をなでるように流すこと。この4つです。

また、薬剤が目や顔に流れ落ちないよう、タオルを添えたり、顔を上に向けすぎないようにしたりする配慮も大切です。万が一、薬剤が肌や目に触れてしまったときの対処については、白髪染めの薬剤が肌や目についたら|あわてないための対処の基本にまとめています。

洗い流したあとも、しみる、かゆい、赤みが続くといった状態が気になるときは、皮膚科などの医療機関に相談することをおすすめします。

美容室で乳化・すすぎについて伝えておきたいこと

美容室では、乳化やすすぎの工程は、美容師が薬剤や頭皮の様子を見ながら進めています。ただ、その日の頭皮の感じ方や、これまでの経験は、お客様ご自身にしか分かりません。次のようなことを事前に伝えておくと、施術がぐっと快適になります。

たとえば、以前に白髪染めのあと、すすぎのときにしみた・熱く感じたという経験があること。お湯は熱めよりもぬるめが好みであること。水圧は弱めが心地よいこと。生え際や耳のうしろなど、特にひりつきやすい場所があること。首や肩がつらくて、シャンプー台の姿勢が長いと疲れやすいこと。このような情報があれば、乳化やすすぎのときにお湯の温度や水圧、手の動かし方を調整しやすくなります。

施術中も、乳化やすすぎの途中で、熱い、しみる、かゆいと感じたときは、その場で伝えてください。「もう少しで終わるから」と我慢するよりも、早めに伝えていただいたほうが、頭皮への負担を抑えやすくなります。

また、「今は何の工程ですか」と質問して大丈夫です。乳化やすすぎは、お客様から見えにくい工程なので、説明を受ける機会が少ないまま進むことも多いものです。何をしているのかが分かるだけでも、施術中の安心感は変わります。

低ジアミン・ノンジアミンの薬剤を選んでいる場合も、乳化やすすぎの丁寧さは変わりません。刺激を感じにくい薬剤であっても、薬剤が頭皮や髪に残ることは避けたいものです。薬剤の種類にかかわらず、流し残しのない状態に整えていくことが基本になります。1剤と2剤の違いなど、薬剤のしくみについては、白髪染めの1剤・2剤とは?混ぜるしくみと頭皮への負担の関係で触れています。

白髪染めのすすぎで頭皮が気になるときの伝え方|白髪染めの薬剤を洗い流すとき、頭皮が気になる方が美容師に伝えたいこと

今どんな工程なのかを聞いて、安心して過ごしてください

白髪染めの乳化は、薬剤を置き終えたあと、少量のお湯でなじませて、落としやすい状態に整える工程です。色を薄くするものではなく、髪と頭皮から薬剤をていねいに落とすための準備にあたります。あわせて、ぬるめのお湯でのすすぎや、生え際・耳のうしろ・襟足といった残りやすい場所への配慮が、頭皮への負担を考えるうえで大切な部分になります。

乳化やすすぎの感じ方は、体質やその日の頭皮の状態によって人それぞれです。しみる、熱い、かゆいと感じたときは、我慢せずに、その場で美容師に伝えてください。「今は何をしているのですか」と尋ねることも、遠慮はいりません。白髪染めの流し方や頭皮への負担が気になる方は、これまでの経験もあわせて、美容師に相談してみてください。